疫学統計・解析委員会資料(令和3年7月26日-8月1日)

ページ番号1018239  更新日 2024年1月11日

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解説および資料(令和3年7月26日-8月1日)

現状

沖縄県における先週(7月26日-8月1日)の新規陽性者数は、2,461人(前週 992人)でした。沖縄本島(周辺離島を含む)における週あたりの実効再生産数(R)は2.43(95%CrI:2.33,2.54)であり、前週の2.33を上回り、さらに加速しながら感染拡大が続いています(図1)。

グラフ:陽性者数の推移と実効再生産数(北部、中部、南部)

グラフ:沖縄県における性年齢階級別症例数(7月26日~8月1日)

年代別では、20代が688人(28%)と最多であり、30代 468人(19%)が続きます。20代は先週比の3.14倍と最大で、若者世代における感染拡大が顕著であることを示しています。この世代では、男性での感染が突出して多くなっています(図2)。

園児、生徒、学生の感染事例が、全体の15%を占めています。内訳は、保育園・幼稚園児 26人(前週 7人)、小学生 143人(前週 62人)、中学生 79人(前週 47人)、高校生 49人(前週 17人)、大学生 27人(前週 7人)、専門学校生 33人(前週 15人)でした。小学生のほか、大学生における感染が増加していることが注目されます。実際には、検査を受けていない方も多いと考えられ、夏休みに入って活発に活動していることが考えられます。

イラスト:沖縄県内における検査事業の実績(7月24日~30日)の表

沖縄県では、学校生徒で1人でも陽性者を確認したとき、クラス全員のPCR検査を実施しています。先週(7月24日-30日)は、53クラス、1,875人に検査が実施されて陽性者28人でした(図3)。デルタ株への置き換わりとともに、学校でも集団感染が起き始めていると考えられます。夏休みに入りましたが、現在の沖縄の感染状況を踏まえ、子どもたちが集まるイベントについては、できるだけ控えていただければと思います。

グラフ:年齢別陽性者数の推移(週あたり)

65歳以上の高齢者は172人(7%)であり、前週の82人より大きく増加していますが、全体に占める割合は低下しています(図4)。

また、このうち75人は同一の医療機関における院内感染であり、高齢者の市中感染が拡がっている印象はありません。

ただし、施設入所者16人、デイ利用者5人の感染が確認され、とくにワクチン接種が完了していない介護施設では感染対策の徹底をお願いします。

グラフ:医療圏別にみる新規陽性者数の推移

医療圏別では、北部 80人(前週 61人)、中部 1049人(前週 367人)、那覇市 618人(前週 275人)、南部 622人(前週 264人)、宮古 38人(前週 13人)、八重山 26人(前週 6人)でした(図5)。全県的に拡大していますが、とくに中部、宮古、八重山で加速しています。なお、宮古医療圏の実効再生産数(R)は2.16(95%CrI:1.49,2.95)であり、八重山医療圏は4.20 (95%CrI:2.65,6.10)でした。

疫学調査で明らかにできた範囲において、渡航関連での感染者は39人(1.0%)でした。内訳は、県外へ渡航した県民が11人、県外からの渡航者28人です。また、渡航者との接触による感染は7人でした。県内感染における寄与度は高くありませんが、今後、本土での流行を受けて増加してくるものと考えられます。帰省、出張、観光を含めて、不要不急の渡航は原則として延期いただくようお願いします。

グラフ:市町村別にみる新規陽性者数(先週の上位10市町村)

市町村別では、那覇市那覇市 618人(前週 276人)、うるま市 360人(前週 115人)、沖縄市 317人(前週 97人)、浦添市 189人(前週 100人)、宜野湾市 160人(前週 49人)でした(図6)。先週に引き続き、都市部での感染拡大が顕著ですが、とくに急速な増加を認めたのは、八重瀬町(8.0倍)、嘉手納町(5.3倍)、石垣市(4.3倍)の3市町でした。

グラフ:在沖米軍と沖縄県における新規陽性者数の推移

なお、在沖米軍における新規陽性者数は45人(前週 47人)と頭打ちになってきました(図7)。嘉手納基地の流行は収束し、代わってキャンプハンセン、キンザー、フォスターで増加しており、空軍から海兵隊へと流行が移行しつつあると考えられます。先週、基地従業員において12人の感染を認めています。

海兵隊は、7月31日、ワクチン接種の有無にかかわらず、兵士のマスク着用を指示しましたので、状況が改善することを期待します。

グラフ:新規陽性者数および重症度別入院患者数

入院患者数は、先週末(8月1日)が526人(7月25日 341人)と急速に増加しています。酸素投与など中等症患者 340人(7月25日 183人)、気管挿管など重症患者 6人(7月25日 2人)となっています(図8)。入院患者において、中等症者が占める割合は64.6%、重症者が占める割合は1.1%と、現時点では低いレベルで推移しています。

沖縄県内で流行しているウイルスは、デルタ株へと置き換わりが進んでいます。先週、332検体について変異株(L452R)PCRを実施したところ、188検体(56.6%)において陽性を確認しました。これらはインド由来のデルタ株だと考えられます。とくに、中部は72%と置き換わりが進んでおり、このことが急速な感染拡大の要因となっていると考えられます。

イラスト:今後1週間(8月2日~8月8日)の発生見込み数の表

推定

沖縄県内では、急速に感染が拡大しており、その勢いは加速しています。今週、やや勢いが減弱したとしても、実効再生産数 1.5-1.8で推移すると考えられます。よって、新規陽性者数は4,500-6,000人になるものと推定します。

ただし、県内のPCR検査能力は1日あたり最大1万件と考えられるため、徐々に診断できない感染者が増えてくると考えられます。すでに、軽症者のPCR検査は数日待ちとなってきており、流行の実態を捉えられなくなりつつあります。つまり、今週中に報告される陽性者数が3,000人であったとしても、実際には、より多くの感染者が発生しているものと考えるべきです。

入院患者数については、今週末までに800-900人へと増加します。ただし、病床確保が限界を迎えるため、実際には、200人程度が自宅や施設での療養を余儀なくされます。中等症以上の患者については、今週までは、おおむね入院で対応することが可能と考えられますが、来週以降は困難となってくるでしょう。

気管挿管等が行われる重症患者数も増加しますが、ワクチン接種の効果もあって、高齢者は少なく、過去の経験に基づく推定値よりは低めに推移するものと考えられ、15-20人と見込みます(図9)。重症者が急速に増加するのは来週以降と考えられます。

イラスト:求められる沖縄県の対策について

解説

沖縄県では、感染力の強いデルタ株への置き換わりが進行し、急速な感染拡大が続いています。

米国CDCが先月末に発表したリスク評価によると、デルタ株の基本再生産数は5.0-9.5であると推定しています。9.5とするのは誇張が過ぎるとしても、下限の5.0であったとして、従来株の2.5からすれば2次感染が倍増することを意味しています。このことが、現在の沖縄の急速な感染拡大の背景にあると考えられます。

デルタ株の置き換わりが進むとともに、さらにウイルスの勢いは増してくと考えられます。もっとも感染しているのは、20代から30代にかけての若者世代です。結論のみの「協力依頼メッセージ」だけでなく、そのメッセージに至るプロセスを含めて伝え、対話していく必要があると思います。

県内メディアで感染拡大は報じられているものの、そこにある危機感は共有されていません。「もはや自粛には協力できない」との声が繰り返し報じられ、協力しない選択肢について許容される風潮が生じています。もちろん、個人の選択は尊重されますが、社会全体を導く方向性については、メディアも含めて一致協力する必要性を感じます。

感染者数が減少に転ずる(実効再生産数が1.0を下回る)のは、少なくとも2週間以上はかかると考えられます。よって、8月中旬までには、本来なら入院で治療すべき数百人の中等症患者について、自宅や施設で支えざるを得なくなります。こうしたなかでの在宅死をできるだけ回避することが、今後の医療提供における重要な目標と言えます。

今週末までに入院医療は限界を迎えることから、沖縄県では、通常の医療提供が困難になっていきます。新型コロナのみならず、心筋梗塞、脳梗塞などの急性疾患の診療にも支障が生じるものと考えられます。しかも、この状況は数週間にわたり継続します。この状況を脱するためにも、以下の3つの対策を強化していくことが求められます(図10)。

  1. 医療体制の維持
    救急外来から入院医療に至るまで、新型コロナへの対応に限らず、地域医療を守るため、医療従事者のみならず県民、事業者が一丸となって支えることが必要です。
    外来機能を維持するため、できるだけ軽症者は市販の抗原検査へ、無症状の接触者は市中のPCR検査所へと誘導する必要があります。これらの応需体制の強化が必要です。そのうえで、必要に応じて医療機関の受診へと振り分けていかなければなりません。
    救急搬送先が確保できない感染者のため、南部地区に入院待機ステーションを再開しています。今後、これを拡張していくことが必要です。ただし、医療従事者の確保が大きな障壁となっています。宿泊施設の確保においても、同様の問題に直面しています。
    こうした最前線でコロナ対応する看護師に対して、十分な給与が支払われていないことが課題としてあります。実際のところ、県が設置するワクチン接種センターで働く方が、より安全であり、より高額の給与が保障されています。
    献身的な看護にも限界があります。このアンバランスを解消しない限り、医療提供体制は改善しないどころか、崩壊を早めるものと危惧されます。
  2. 感染拡大の阻止
    沖縄県内における加速度的な流行を封じることに、県民、事業者の皆さんの協力をいただかなければなりません。デルタ株の流行により、これまで感染が起きにくかったとされる場所でも、感染が起きているものと考えられます。
    もはや、県内では、どこで感染してもおかしくありません。できるだけ人と人との接触を減らしていくことが必要です。とくに、自宅であれ、飲食店であれ、同居する家族以外との会食は控えてください。
    これはワクチン接種者であっても同様です。デルタ株でも重症化予防は十分に期待されますが、感染リスクは残されています。あなたは守られていても、地域を守るために協力してください。流行が収まってきたときには、段階的解除が行われると考えてください。
  3. ワクチン接種の推進
    デルタ株に対するワクチン効果の減弱はわずかです。イギリスにおける検討によれば、ファイザー社のワクチン接種による発症予防効果は、アルファ株で93.4%であったものが、デルタ株では87.9%でした(Lopez Bernal et al. medRxiv preprint ; ttps://doi.org/10.1101/2021.05.22.21257658)。接種を進める意義は十分にあります。

グラフ:市町村別にみる感染者数とワクチン接種率

沖縄県の人口5千人以上の26市町村における、過去4週間の感染者数をみると、20歳以上のワクチン接種率と逆相関を認めています(図11)。デルタ株の基本再生産数が5.0であるとすれば、集団免疫のためには80%以上の接種率が求められることになります。しかし、30%でも、40%でも、刻むように接種率を上げていくことで、地域流行の規模は縮小するものと期待されます。

高齢者、糖尿病や肥満など重症化リスクの高い方々、およびケアに関わる医療介護従事者への接種を徹底してください。次いで、活動性が高い若者世代、集団生活をしている方、他人と接触頻度の高い職種の方々への接種を進めてください。

ワクチンの接種率の向上が、最大の出口戦略であることに変わりはありません。県民の皆さんも、どうかワクチン接種に協力してください。ワクチンに関しては、様々な情報が飛び交っていますが、正しい情報にアクセスするようにしてください。

「沖縄県疫学統計・解析委員会資料」

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沖縄県 保健医療部 感染症総務課
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