農業生産基盤整備現状と効果

ページ番号1011509  更新日 2024年1月11日

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1)農業生産基盤整備の背景と現状

イラスト:新聞
当時の新聞記事

農業生産基盤の整備は、営農と不離一体であるため個人レベルでは古くから行われてきましたが、八重山地域における大規模な計画的整備は、戦後の食糧増産対策の一環としての「開拓地整備事業」がその始まりといえます。

その後、琉球政府によって「経済振興第一次5ヶ年計画」(1955年)が策定され、33ヘクタ-ルの農地を受益とする石垣ダムの築造と導水路の整備が為されましたが、復帰時までには十分な整備が行われていたとは言えませんでした。

このような状況下で、八重山地域は昭和46年の3月~9月にかけて、連続干天日数191日という未曾有の大干ばつに見舞われ、農業は壊滅的な打撃を受けたことがあります。

それまでも「雨待ち農業」の域を出ず、出稼ぎを現金収入の手段としていた零細農業であったものの、この時の事態は農家のみならず、地域経済全体に与える影響も大きかったようです。

郡民総決起大会では農家自らが「枯れたさとうきびに火を付け窮状を訴えた」ほか、地域をあげて農業用水の確保を求める要請が行われました。

折しも、この大干ばつが沖縄の本土復帰の前年であったことから、目に見える「復帰による効果」の発現手段の一つとして、農業用水の確保をはじめとした農業基盤整備が行政の緊急重要課題であると認識され、集中的な公共事業による投資が行われました。

これまでに投資された事業費は、国営ダム(3箇所)建設に 650億円、かんがい排水事業等「生産基盤整備」に 1,180億円、集落地域整備事業等「生活環境整備」に 140億円、農地保全事業等「保全管理」に 100億円、計 2,000億円余となっています。

その結果、八重山管内の平成24年3月末の農業生産基盤の整備状況は、整備率で農業用水源施設が59.7%、かんがい施設が46.3%、ほ場の区画整理が68.1%と、県内他地域に比べて進んでおり、土地生産性の向上、労働生産性の向上が図られ、農業生産の拡大に寄与してきたところです。

イラスト:農業生産基盤の整備状況
図ー1ー1.市町村別、農業生産基盤の整備状況(平成18年3月末)

2)基盤整備による効果

(1)八重山の農業情勢の推移

1. 農業産出額

八重山の農業産出額は、県全体としては頭打ちの状況の中にあって、肉用牛の好調に支えられ30年前の生産額(54億円)の約2倍(物価上昇を加味した換算価格(94億円)に対しても 1.3倍)となる 122億円と上昇しています。

イラスト:農業産出額の推移
図ー2ー1.農業産出額の推移(沖縄農林水産統計年報)

底原ダムが竣工した平成5年度の年間降水量は、昭和46年度に匹敵する 1,100ミリ程度であったにも関わらず、例年と遜色のない農業産出額を計上していることは「天水農業」からの脱却を示しているといえます。

イラスト:農業産出額の推移と降雨量の影響
図ー2ー2.農業産出額の推移と降雨量の影響(沖縄農林水産統計年報)

また、農業産出額の県内シェアも、昭和50年は8%程度であったものが14%に上昇するなど、県内における食糧基地としての位置も向上してきています。シェアの伸びの顕著なものは、さとうきび・野菜・肉用牛等農業用水を必要とする品目であることから、農業用水の安定的な確保による効果と思われます。

イラスト:品目別農業産出額の県内シェアの推移
図ー2ー3.品目別農業産出額の県内シェアの推移(沖縄農林水産統計年報)

2. 農地

八重山地域の農地は約 8,100ヘクタ-ルですが、県内他多地域とは異なり水田や牧草地が多いことが特徴です。また、全経営耕作地における耕作放棄率は県平均より大きいものの、ほ場整備実施地区における耕作放棄率は0.03ヘクタ-ルとほとんど耕作放棄が無い状況です。これは、ほ場整備事業の実施に伴う大きな効果といえます。

イラスト:ほ場整備実施地区と未整備地区の耕作放棄地率の全県との比較
図ー2ー4.ほ場整備実施地区と未整備地区の耕作放棄地率の全県との比較(農業センサス2000)

3. 農家経営

八重山地域の一戸あたりの経営規模は、肉用牛経営の増大に相まって拡大傾向にあり、平成16年度で 4.3ヘクタ-ル(県平均の2.65倍)と、県内市町村では南北大東村に次いで大きい状況です。

イラスト:八重山地域の経営規模の推移と全県との比較
図ー2ー5.八重山地域の経営規模の推移と全県との比較(沖縄農林水産統計年報)

また、階層別経営規模も、1ヘクタ-ル未満の零細農家が減少し、5ヘクタ-ル以上の大規模農家が増加する傾向にあります。これは、県内平均が1ヘクタ-ル未満のシェアが50パ-セント以上あるなかで、特徴的な状況といえます。

イラスト:階層別経営規模の割合の推移と全県との比較
図ー2ー6.階層別経営規模の割合の推移と全県との比較(沖縄農林水産統計年報)

(2)土地生産性の向上

「土地生産性の向上」とは、品質を上げて生産価格を向上させることで、農業用水を活用すること(かんがい施設の整備の有無)で、その効果を期待することができます。

かんがい施設の整備効果を、八重山地域の過去15年間の「さとうきびの反収」で評価してみると、整備の進んでいる石垣市(整備率65.8%)においては、 6.5tから 7.2tに上昇していますが、整備の進まない与那国町(整備率 1.5%)においては、 5.5tから 4.4tまで減少していることがわかります。また、整備が進みつつある竹富町においては、反収が上昇傾向にあり、石垣市の反収の 7.2tに近づきつつあります。

これらのことから、かんがい施設の整備が「無かりせば」とすると、石垣市と与那国町の平均反収の差がその効果と評価されるため、1.64倍(=7.2/4.4)の効果があったと推定されます。

イラスト:整備水準別(市町村別)さとうきびの反収の推移
図ー2ー7.整備水準別(市町村別)さとうきびの反収の推移(沖縄農林水産統計年報)

(3)労働生産性の向上

「労働生産性の向上」とは、労力に対する生産額を向上させることで、区画の整形、農道の整備、営農の機械化等により、その効果を期待することができます。図-2-8は全県のものですが、ほ場整備の進展により時間あたり生産額が上昇していることが判ります。八重山地域は区画形状が比較的大きいことから、県内他地域よりも機械化が進みその効果はより顕著といえます。

イラスト:ほ場整備率と時間当たり生産額の推移
図ー2ー8.ほ場整備率と時間当たり生産額の推移(沖縄農林水産統計年報)

また、さとうきびの収穫も機械化が進められ、反当たりの労働時間の低減が図られています。八重山は、県内でもほ場整備が進展していることから、県内平均より機械化率が高いことが判りますが、これも農地の集約化を始めとした「区画整理」「農道整備」の効果と言えます。

3)今後の展開

これまでに述べたように、八重山地域は農業生産基盤整備の進展により土地生産性の向上や労働生産性の向上が図られ、営農技術の改良、品種の改良等と相まって、県内他の地域よりも農業情勢は元気な状況にあります。

しかし、土木的整備の急速的な進展による弊害の解消や、事業導入の先発地域であるが故の更新対策など、次の段階の課題も他の地域よりも先にやってきました。

そのため、今後の展開として次のような対策を講ずることとしています。

1.赤土等流出防止対策

農地からの耕土流出は、公共水域の汚染のみならず、農家にとっても重要な資源の流出であり、その流出防止に努めて参りました。

特に、平成16年度には緊急に対策が必要であるとされた「轟川流域」を対象とした「流出防止対策マスタ-プラン」を策定し、営農的対策と土木的対策を連携させた総合的な対策を進めてきたところです。

平成17年度からは対象地域を石垣島全域に拡大した「流出防止対策マスタ-プラン」を作成中(平成19年度策定予定)であり、石垣島における流域毎の流出抑制量を踏まえた事業計画を策定中です。

また、平成19年度からは対策重点地区を「磯辺川流域」に移行し、同流域からの流出量を平成27年度までに半減させる対策を講じるとともに、引き続き事業導入前後の流出量を測定し、効果の検証を進めてまいります。

イラスト:計画図1
図3ー1 宮良川地区水質保全対策事業管理計画図

2.台風による暴風対策(防風林帯の再整備)

台風による「雨」は、農作物の生育にとって欠かすことのない水を運んでくれる必要なものですが、「風」は農作物の成長を阻害し、時として汐害を招き、ハウス等農業用施設を倒壊させるなど、農業経営上も有り難くないものです。

八重山地域は、ほ場整備計画当初より防風林を造成するための用地を農家から提供してもらい、県内の先発地域として防風林帯を整備してきました。

宮良川土地改良区内での防風林帯面積は、全農地面積の1パ-セント強にあたる37ヘクタ-ルもあります。

しかし、造成当時から30年余りたった現在、維持管理の不徹底さのみならず、その更新時期にもあたることから、防風林帯の再整備が緊要であるといわれています。

そのため、「みやらがわ地区防風林整備促進計画」を現在とりまとめ中であり、次年度以降計画的な再整備を行うこととしています。

イラスト:計画図2
図3ー2 みやらがわ地区防風林再整備マスタープラン(案)

3.既存農業水利施設の更新整備と農業用水の再編整備

イラスト:計画図3
図3ー3 石垣地区用水再編のイメージ図

石垣島には農業用ダムをはじめとした農業用水利施設が多くあり、県内でも整備が進んでいる地域です。

しかし、施設整備後30余年が経ち耐用年数を超える施設も出てくることから、計画的な更新整備が今後必要となります。

また、高騰する維持管理費の軽減対策として低コスト維持管理システムの導入も検討する必要があります。

一方、既存ダムの受益地以外である石垣西部・北部・東部地区の一部や石垣島以外の離島においては、安定的な水手当が為されていない状況にあります。

そこで、島別の農業用水需給計画の見直しを検討するとともに、石垣島においては、土地改良区の合併に合わせた農業用水の再編整備を本振興計画内に策定できるよう、国と協議していきます。

なお、離島においては、地元負担金の軽減、権利者調整等の対策が課題として残ります。

4.景観環境に配慮した施設整備と農村地域の活性化支援

写真:農道植栽
写真3ー1 明石地区における地域資源保全活動(農道植栽)

農村地域は、農家が生活することで守られる「里地里山」そのものであり、生き物が生息する良好な環境下にあります。

また、農業生産の場であるとともに、そこにある農地や用水施設・防風林施設等によって、良好な景観を持つ癒しの空間でもあります。

しかし、農村地域の高齢化や混住化により、これら施設の適正な管理を行う活動を引き続き行うことが困難になりつつあります。

そのため、平成19年度以降、県では国・市町とともに、これまで地域単位で自らが行ってきた地域の共同活動の質を高め継続していただくために、「農地・水・環境保全向上対策」として支援することとしました。

離島における自立は、地に足がついた一次産業の健全な活動が第一であり、環境と調和した持続性のある農村地域の振興と基盤の整備が、引き続き必要です。

これらの対策は、行政のみで対応することはできません。また、農家の協力のみでできるものでもありません。地域に住まう方々の理解と支援が必要不可欠となります。

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沖縄県 農林水産部 八重山農林水産振興センター農林水産整備課
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