1.赤土汚染がおきるしくみ

ページ番号1004458  更新日 2024年1月11日

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沖縄の島々では、まとまった強い雨が降ると開発現場や農地、米軍演習場などから土壌が流出し(写真1)、透明に輝くサンゴ礁の海を濁らせます(写真2)。このような現象は、沿岸海域のサンゴ礁生態系を破壊し水産業や観光産業にも悪影響を及ぼしています。一般的に赤土とよばれる国頭マージばかりではなく、ジャーガルとよばれる灰色系の土壌やその母岩でクチャと呼ばれる泥岩も著しく流出します。ここでは、便宜上、これらの土壌などをひっくるめて赤土等とよび、その流出に伴う川や海などへの悪影響を赤土汚染とよぶことにします。赤土汚染は、沖縄だけでなく同様な亜熱帯の島々の鹿児島県奄美群島でも深刻な社会問題になっており、東京都小笠原諸島や海外のサンゴ礁の島々でも問題になっているといわれます。このページでは、沖縄の赤土汚染問題を中心に紹介します。

写真:川の汚染調査の様子
写真1
サトウキビ畑からの赤土流出(国頭村 2000年)
写真:赤土汚染した海
写真2
赤土流出で濁った海(本部町 2000年)

赤土等が流出しやすい自然的要因に、開発工事のような人間活動が加わると赤土汚染がおきやすくなります(図1)。その自然的要因として、土壌、地形、降雨の三つの条件が挙げられます。

イラスト:赤土汚染の要因


はじめに土壌条件ですが、本土のような温帯性気候では、落葉などの有機物を豊富に含んだ腐植層(黒い土)が地表に厚くできます(写真3)。有機物は土壌がバラバラになるのを抑える接着剤のような役目を果たしています。一方、亜熱帯の沖縄では年中気温が高いので、土壌動物や微生物などの活動が活発で、有機物の分解速度は温帯よりもかなり速いと言われています。このため、腐植層は極めて薄く(写真4)、開発工事などで表土がはぎ取られると土壌は雨でたやすくバラバラになって流出するのです。

写真:本土の土壌
写真3
腐植層の発達した本土の土壌(大分県久住)
写真:沖縄の土壌
写真4
腐植層の極めて薄い沖縄の土壌(大宜味村)

また、クチャと呼ばれる泥岩は、太陽による乾燥と降雨による湿りを繰り返すうちに表層がボロボロに細かくなり(写真5)、夕立程度の雨でも濁った水が発生します。その濁りの度合いは、赤土の5倍にも達します。クチャは灰色をしているので流出しても赤土のようには目立ちませんが、流出が多量になると川や海に悪い影響を与えます(写真6)。

写真:泥岩
写真5
クチャ(泥岩)の細粒化(大里村目取真)
写真:海藻
写真6
大雨の後、クチャの流出で汚染された海藻(糸満市名城 1995年)

二番目の自然的要因として地形条件が挙げられます。一般的に、赤土等が分布しているのは急傾斜の山地や丘陵地です(写真7)。沖縄の島々は小さいので河川が短く、陸域で流出した赤土等は短時間のうちに海まで運ばれてしまいます。写真は大宜味村のアザカの滝です(写真8)。普通、滝は川の中流に位置するのですが、この滝は海岸からわずか600mのところにあり、下流での赤土の堆積作用はほとんど期待できません。

写真:地形
写真7
赤土が分布する地形(国頭村伊江)
写真:アザカ滝
写真8
赤土が流出するアザカ滝(大宜味村)

三番目に降雨条件が挙げられます。沖縄ではスコールのような強い降り方が多いので、裸地に雨が当たると容易に土壌の粒子がはじき飛ばされて流出します。雨の侵食性(土をえぐる力)の強さは、沖縄(那覇市観測)では全国平均の3倍もの値を示します。もちろん、このような自然的要因だけでは赤土汚染は発生しません。昔は赤土汚染という言葉はなかったのです。自然的要因に、開発などで山の緑を引きはがし裸地状態にするという人間活動が加わって初めて赤土汚染が引き起こされます。沖縄では、農用地、開発事業、米軍基地からの流出量が圧倒的に多く、三大流出源と呼ばれています。

なお、沖縄の島々の沿岸では陸地と沖合いの干瀬で囲まれた礁池(イノー)が多くみられます(写真9)。干瀬が堤防のような役目をするので、礁池の中は外洋との海水の交換がゆるやかです。礁池に流出してきた赤土等は一部、引き潮時に干瀬の切れ目から細々と外洋に流出しますが(写真10)、大部分は礁池にたい積します。たい積した赤土等は、台風や季節風により波が荒れると巻き上がって再び海を濁らせます。すなわち、赤土汚染は強い雨が降った時だけの一時的な現象ではなく、継続してサンゴ礁の海に悪い影響を与えています。

写真:干瀬と礁池
写真9
沿岸に発達した干瀬と礁池(イノー)(恩納村万座)
写真:赤土
写真10
干瀬の切れ目から細々と外洋に出て行く赤土(国頭村伊江川河口 1988年)

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